・2023/02/15
2020年3月日本整形外科学会はロコモティブシンドロームの段階を判定するための臨床判断値にあらたに「ロコモ度3」を設定し公表しました。
・ロコモ度テスト
フレイルという言葉をご存知でしょうか。
フレイルとは高齢者において「生理的予備能」(外からのストレスによる変化を回復させる能力)が低下し、要介護の前段階に至った状態を意味します。
フレイルが現れる要因には身体的、精神・心理的、社会的の3つの側面があり、このうち身体的フレイルがロコモと深く関係しています。
ロコモはフレイルより人生の早い時期に現れます。ロコモが進行し、身体能力の低下が自覚症状を伴って顕著になったものが身体的フレイルです。
移動機能の低下によって社会参加に支障をきたす「ロコモ度3」が、身体テクフレイルに相当する段階といえます。
・2015/08/03
平成27年05月15日、日整会はロコモ度を判定する新たな「臨床判断値」を公表しました。
臨床判断値とは、一般的に、疾患や病態の予防・治療・予後などについて判定を行う際の基準となる値を指します。臨床判断値により、ロコモ度(移動機能低下の度合)を判定することで対処の目安が明らかになります。
ロコモチャレンジ!推進協議会「ロコモ臨床判断値の説明資料」から引用
(平成27年2月22日 中村耕三)
【ロコモ度テスト】
ロコモ度テストはこちら https://locomo-joa.jp/check/test/
(ロコモチャレンジ!ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト)
1身体的機能評価法
「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」
1)簡便に実施できる
2)被検者が結果の意味を直感的に理解できる
3)検査法の結果が対策と直結している
2主観的評価法
「ロコモ25」(計量心理学的手法)
区分2(07-15点):移動機能低下が始まっており、対策が勧められる
区分3(16-23点):移動機能低下がすすんでいるが、生活は自立している
(要支援未満)
区分4(24-32点):要支援状態相当
【臨床判断値】
(背景)
1要支援・要介護早期予測因子
①椅子立ち上がり時間 FTSST(12sec以上)
(椅子から5回立ち上がるのに要する時間:FTSST five times sit to stand test)
②通常歩行速度(1.0m/sec以下)
(地域住民コホート縦断研究 Akune T, et al.)
2「ロコモ25」
困難さの出現には順序性がある。
①階段の昇り降りが困難である ②急ぎ足で歩くのが困難であるが早期に出現する。(岩谷力ほか)
*移動機能低下の早期発見には、身体的機能評価法として「立つ」「歩く」機能評価が重要であることを示している。
・「立つ」>身体を垂直方向への移動する機能>「立ち上がりテスト」
・「歩く」>身体を水平方向に移動する機能> 「2ステップテスト」
3運動機能の低下は本人自身にも自覚され、移動機能低下は人々の健康感に結びついている。このため身体的機能評価だけでなく、主観的評価も大切である。また、対策が効果をあげるためにも、本人の主観的評価は重要である。
以上より、ロコモは2つの身体的機能評価法と主観的評価法の3つの方法で評価する。
ロコモ度1・ロコモ度2とも(ロコモ度1のFTSSTの該当数を除く)歩行速度<1.0m/秒、FTSST>12秒に対して、3つのテストの基準はそれぞれが独立した因子として有意に関連性があり、該当数が増える毎にその関連性は強くなる。また、ステージ2のほうがステージ1より関連性が強い。今後、ROADから縦断研究の結果が出た段階で基準値の見直しがあり得る。
【ロコモ該当者推計数】
該当者数の解析
方法:40歳以上で各年代(10歳刻み)で男女別に有病率を求め、それを平成22年国勢調査の人口にあてはめ推計。
(約1500人の解析からの推定で、誤差が見込まれる。)
( ロコモ度1)
*40歳以上:各基準の少なくとも一つ該当
男性2020万人・女性2580万人 総数4600万人
(ロコモ度2)
*40歳以上:各基準の少なくとも一つ該当
男性500万人・女性920万人 総数1420万人
*40歳以上:基準を三つとも該当(最もリスクが高い)
男性230万人・女性520万人 総数750万人
*65歳以上(要介護の認定年齢):基準を三つとも該当
男性180万人・女性440万人 総数620万人
ロコモ要介入カットオフ値としての「片脚立ち20秒」について
*注釈
ロコモか否かをスクリーニングするための開眼片脚起立時間のカットオフ値の策定に関しては、「ロコモの基準値決定」の文献からも「片脚起立時間 約20秒」が「ロコモ要介入」と判定するカットオフ値として最適であるとしています。
(岩谷 力先生)
星地、村本ともに「ロコモ25」16点のカットオフ値として片脚起立時間 19あるいは21秒としています。
20秒というのが相場でしょう。星地のデータは整形外科診療所での対象者です。村本のデータは北海道の地域コホートです。ただし両側の片脚起立時間のいずれ(長い方?、平均値?)かは未確認です。
ロコモ25の16点が妥当か否かについてはSeichi JOS 2012, 17:163-172 出典ですが、もう一歩踏み込んだものとして小生の「ロコモは鵺か」をご参照ください。16点以上となると地域のイベント参加、やや重い家事に何らかの困難性を感じる人が50%を超えます。
しかしこの私たちのデータは星地、村本の対象とは異なって、運動器疾患があると整形外科医が診断した人たちです。この対象集団が異なるところが注意しなければならない点であると思います。
ロコモをメタボと同じように中高年の健康チェックのレベルでの問題とするのか、高齢者の運動器機能低下により介護となるリスクがきわめて目前に迫っている状態に使うのかです。Prospective studyがない中で、学問の裏打ち(evidence)のあるデータに基づいて社会に訴えることには時期尚早でしょう。となれば参考値としてこれらの値を用いることは可能でしょう。その場合にはevidence以外に正当性を主張する論理が必要です。「どうもこんなことが起こりそうだから、これくらいのひとは注意してください」ということでしょうね。
その場合にはそれによってなにが得られるのか、アウトカムとしてなにが期待されたとえ期待値が達成されなくても、なにかの便益が見込まれるという説得をしなければならないのではないでしょうか。
*参考文献(会員)
1.ロコモ基準値(開眼片脚起立時間カットオフ値)について
JOS 掲載原著論文要旨より
1)星地亜都司,星野雄一,土肥徳秀,赤居正美,飛松好子,北 潔,岩谷 力.
ロコモティブシンドローム判定のための開眼片脚起立時間カットオフ値の策定.
日整会誌 2014;88-10 JOS掲載原著論文要旨
2)村本明生,今釜史郎,伊藤全哉,平野健一,田内亮 吏,石黒直樹,長谷川幸治.
ロコモティブシンドロームにおける運動機能検査の閾値.
日整会誌 2013;87-10 JOS掲載原著論文要旨
2.第27回日本運動器科学会 宮崎市(2015/07/04) 抄録より
1)本邦におけるロコモティブシンドロームの疫学
星地 亜都司(社会福祉法人三井記念病院整形外科)
2)ロコモ判定ツール簡易版ロコモ5のカットオフ値
星地亜都司(社会福祉法人三井記念病院整形外科)
3)ロコモティブシンドロームにおける障害化プロセス
岩谷 力(長野医療福祉大学)
4)運動器障害のある高齢者における18か月間の運動器リハに伴う機能の推移
大熊 雄祐(国立障害者リハビリテーションセンター)
5)地域住民のロコモティブシンドロームの現状とメタボリックシンドロームとの関連性
松儀 怜(公益財団法人北陸体力科学研究所研究推進課)
6)サルコペニアと骨粗鬆症の相互関係:The ROAD study 第2回調査より
吉村 典子(東京大学大学院医学系研究科22世紀医療センター関節疾患総合研究講座)
7)既存骨脆弱性骨折の背景因子について
北 潔(北整形外科 日本臨床整形外科学会)
3.ロコモは鵺か
岩谷 力(国立障害者リハビリテーションセンター)ほか
Bone Joint Nerve 4(3): 393 -401 2014
4.ロコモとその意義 抄録より
泉田 良一(仁生社江戸川病院整形外科)
更新日2023/02/15