新ロコモ度テストと臨床判断値            2020.03

2020年3月日本整形外科学会はロコモティブシンドロームの段階を判定するための臨床判断値にあらたに「ロコモ度3」を設定し公表しました。

 

 

・ロコモ度テスト

 

 

フレイルという言葉をご存知でしょうか。

フレイルとは高齢者において「生理的予備能」(外からのストレスによる変化を回復させる能力)が低下し、要介護の前段階に至った状態を意味します。

フレイルが現れる要因には身体的、精神・心理的、社会的の3つの側面があり、このうち身体的フレイルがロコモと深く関係しています。

ロコモはフレイルより人生の早い時期に現れます。ロコモが進行し、身体能力の低下が自覚症状を伴って顕著になったものが身体的フレイルです。

移動機能の低下によって社会参加に支障をきたす「ロコモ度3」が、身体的フレイルに相当する段階といえます。

 

ロコモと認知症と骨粗しょう症(初級編)     二階堂医院 二階堂 元重

・2015/12/14

「ロコモ」知ってますか?

「ロコモ」という言葉を知っていますか。「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」の略称です。
病気ではないのですが、年齢とともに立ったり座ったり、歩くことがつらくなる状態を指します。放っておくと、要介護、寝たきりになる可能性があります。ロコモは、高齢化や運動不足によって、足腰の筋力やバランス力が低下して起こります。さらに骨粗しょう症や脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)、変形性膝(ひざ)関節症などの運動器の障害が加わるとロコモが進んでしまいます。

人間のからだを機関車(ロコモティブ)に例えると、運動器(骨・関節・筋肉・神経)は、エンジンであり車輪です。機関車に不具合が起きると、積まれている全ての内臓臓器などに影響をきたします。「ロコモ予防」には運動器だけの問題ではなく重要な意義があるということを理解しなければなりません。


負の連鎖

ロコモと骨粗しょう症と認知症は、それぞれが負の連鎖により、自立した生活を送れる「健康寿命」を短くします。この3つに共通するのは、癌のように直接生命をむしばむものではありませんが、本人の自覚症状のないままに進行し、放っておくと要介護・寝たきりになってしまうのです。
ロコモの人は骨粗しょう症になりやすく、骨粗しょう症が進むと痛みのないままに背骨は骨折をくり返し(いつのまにか骨折)、背中が丸くなります。結果ろっ骨はわき腹にくい込み、胃と腸はくっつくため胸やけや便秘が起こります。肺や心臓は圧迫され、呼吸が苦しくなります。加えてかかと重心となり、転びやすくなります。転んで大腿骨(だいたいこつ)が折れ、動けない期間が長くなると、考えることをしなくなり、認知症になってしまいます。さらには認知症になると転倒率は健常者の5倍というデータがあります。

 


大腿骨近位部骨折

65歳以上の大腿骨近位部(きんいぶ)骨折の場合、元の生活に完全に戻れる人は30%、1年以内の死亡率はなんと13%2万人で健常者の3倍、また5年以内に再骨折を起こす確率は17倍といわれています。高齢者人口の増加に伴い大腿骨近位部骨折患者数が急速に増加しています。欧米諸国の多くは近年減少傾向であるのに対し、わが国だけは年々増加を続けています。わが国の骨粗しょう症に対する治療はいまだ不十分です。

現在、日本の骨粗しょう症の推定患者数は1,100万人と言われていますが、治療患者数は200万人にすぎず、約8割が治療を受けていないのが現状です。これが大腿骨近位部骨折の発生率が低下しない理由と考えられています。

 


いつのまにか骨折

下のレントゲン写真をごらんください。
痛みはありません。背が縮んだとの訴えあり、3週間後再度レントゲンを撮りました。
「いつのまにか骨折」です。一度骨折を起こすと1年以内に20%の人はさらに骨折を起こします。1個のつい体骨折は2個目のつい体骨折を誘発し、やがては大腿骨近位1個の椎体(ついたい)骨折は2個目の椎体骨折を誘発し、部骨折を引き起こします(骨折の連鎖)。つまり大腿骨近位部骨折の発生を防ぐためには、つい体骨折を見逃さないようにする努力が必要なのです。ご心配な方は整形外科椎体骨折専門医を受診してください。そうでない方も定期的な骨粗しょう症検診をお勧めします。

 


軽度認知機能障害 MCI Mild Cognitive Impairment

MCI軽度認知機能障害は記憶機能や注意機能の低下を特徴とし、認知症の前段階として位置づけられています。
現在人口約400万人、5年間で50%の人が認知症に移行するといわれています。近年MCIを有する高齢者は、認知機能だけでなく運動機能にも低下がみられることが知られており、認知症発症リスクを増加させることも明らかになっています。

1)運動機能低下
年齢とともに「つまづき易くなる。」のは筋力低下というよりも、立ち上がり時にふらつき、転倒しやいと感じる「バランス能力」の低下によるものです。年齢とともに「つまづき易くなる。」のは筋力低下だけでなく、立つ上がり時にふらつき、転倒しやすいと感じる「バランス能力」の低下が原因です。すなわち「足が上がらない。」のではなく、体の不安定感により、無意識に足を上げない「すり足」になってしまっているのです。指1本で壁に触れてるだけでいきなり楽に片脚立ち姿勢でいられるのは、筋力ではなくバランスを保つことができるせいです。

2)認知機能低下(実行機能低下)
年齢とともに認知力は衰えます。足元の障害物に気づかない。またぐことができるかどうか咄嗟にはわからない。足を踏み出そうとする瞬間に認知し、判断する能力が衰えてくるのです。また、歩行に際しては足を十分にあげようと意識をそのことに集中しないと必要な高さに足が上がりません。結果、足を滑らせたり小石につまづいたりして転倒することになるのです。脳とくに「前頭葉」の機能レベルが年齢相応に低下してきていることが原因です。
MCIにおける「運動機能」「認知機能」双方の機能低下により、転倒リスクは相乗的に増大します。かつ認知症では認知機能の低下の結果として二次的に運動機能が低下するので、みずから積極的にリハビリテーションを行うことは期待できず、効果を得るまでには長い時間が必要です。「運動プログラム」に「認知プログラム」をうまく組み合わせていくことで、記憶機能が改善し、認知機能が強化された上で、転倒予防が可能になると考えられています。(菅野ら)

 


片脚立ち20秒

ロコモかどうかの簡単なチェック法です。やってみてください。どちらか一方でもヨロヨロするようであれば「ロコモの可能性あり。」です。次の「ロコモ度テスト」に進んでください。ロコモ度テストの結果から、「ロコモ度1」「ロコモ度2」に該当していないか確認してみましょう。
https://locomo-joa.jp/check/judge/

    

 


片脚立ちとスクワット

ロコモを予防するために、私たちは主に二つの簡単なトレーニング法「ロコトレ」を勧めています。膝や腰への負担が軽く、どこででもできる極めてシンプルで安全、かつ医学的根拠にもとづいた方法。それがバランス能力を維持・確保するための「片脚立ち」と体幹や脚の筋力を強化するための「スクワット」です。

*片脚立ち

脚を上げた方の手で、壁や机を使い、体を支えてください。
脚は5センチ程度上げるだけです。足腰の筋力だけでなく、軸足の大腿骨の骨密度も増やすことが医学的に証明されています。左右1分間づつ、1日3回行います。

*スクワット

洋式便座に腰を落とす感じで、上半身を前傾させながらゆっくり座ります。膝がつま先より前に出ないことが大切です。難しければ危険を避けるためイスに座り、机に両手をついて立ち座りをくり返すだけでも構いません。 深呼吸するペースで5~6回、1日3回行います。

 


ロコモ3原則

認知症予防には「有酸素運動」が有効とされています。エアロビクスやウォーキングが代表的で、脳の活性化やメタボリック症候群にも効果があります。

一方、認知症につながる「転倒」を防ぐためには、ロコトレのような「低強度の筋力トレーニング」を継続していくことにより、瞬発力をつける必要があります。転んでも咄嗟に手が出て、かばうことができるようになるためです。

早期に自らの運動器の衰えに気づき、適切なロコトレを行うことで、転倒・骨折のリスクを減らし、要介護や寝たきりになる危険を減少させることが可能になります。

ロコモを予防することで、①転びにくい②転んでも折れにくい③折れてもまた歩ける 体を作ってください。この目的が達成できれば、おのずと認知症の人は減っていくと思います。


デュアルタスクエクササイズ

運動そのものがアルツハイマー病発症の予防や軽減につながるというデータがあります。ハワイのホノルルで、2千人の高齢者を対象に6年間追跡調査を行っています。1日に4分の1マイル(400m)以下しか歩かない人は、1日に2マイル(3.2km)以上歩いている人に比べて、本病の発症率が2.2倍になるということです。また、楽しみながら運動すると、アルツハイマー病になりにくいという動物実験のデータも得られています。広いケージの中で遊具を与えて生活させたマウスにはある本病の原因となる脳内タンパクβ-アミロイドの沈着が有意に少なかったということです。義務感に追われて、ノルマ的に運動するのはあまり効果がありません。会話をしながらや、しりとりをしながらの運動もより効果的です。

SLOCキックオフイベント
ロコトレ&ウォーキングフェスティバル/増田明美さんのウォーキング教室
平成25年5月26日

 


インターバル速歩

信州大学能勢博教授は「インターバル速歩」を提唱しています。
できるだけ速く歩いてください。全速力の70%のスピードで歩く(速歩)と筋肉が太くなるという報告があります。ご自身の体力と相談しながら、3分70%・3分40%以下(緩歩)のペースで交互に1日15分、週4回続けてみてください。正しい姿勢、大また歩きを心がけましょう。慣れたら1日30分まで伸ばしてください。お仲間と楽しみながら(デュアルタスク)計画的に行うことで、脳の活性化が促され、生活全般の質が向上します。

SLOCキックオフイベント
ロコトレ&ウォーキングフェスティバル/増田明美さんのウォーキング教室
平成25年5月26日(日)

 


のびのび体操

5秒3回でご覧の効果です。手の位置が高くなっていることがおわかりでしょうか。
体幹関節(肩甲胸郭関節・肋椎関節・脊椎椎間関節・仙腸関節)が無理なくストレッチされる安全なエクササイズです。肩こり・腰痛はもとより、胸郭の拡大から胸やけ・便秘にまで、幅広く有効な体操と考えます。

 


タンパク質と糖質(炭水化物)

最近、食品との併用効果も注目されています。加齢とともに筋肉内のタンパク質合成能は低下し、若い時以上に多くのタンパク質(1g/kg/日)ならびに糖質(5g/kg/日)を必要とします。インターバル速歩のようなややきつい運動の直後に乳タンパクと糖質を摂取すると、熱中症予防や筋力向上に効果があることもわかっています。運動後30分以内の牛乳200mlが目安です。30分以内というタイミングで乳製品を摂ることで、筋肉内に効率よくアミノ酸が取り込まれます。飲まない人に比べ筋力は2倍にアップするという報告があります。各種プロテインやアミノ酸サプリも市場に出回っているようです。

 


健康寿命延伸の要因

運動器機能が良好で、仕事やボランティア活動を活発に行い、自分は健康だと思うことが、健康長寿の秘訣ということです。適量の「飲酒」と「咀嚼(そしゃく)」は認知症予防としての効果も指摘されています。さらにはアルブミン・コレステロール値は高い方が「ロコモ」には好都合です。

 


1日1杯の赤ワインをどうぞ

β-アミロイドに赤ワインを加えた実験を行ったところ、β-アミロイドが溶解したといいます。
赤ワインに含まれるポリフェノールに抗酸化作用があることは知られていますが、赤ワインには神経細胞の再生修復と、アミロイドβの蓄積予防への効果も期待されています。また赤ワインに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトールには、脳の寿命を延ばす効果があります。ただし、効果があるからといって、アルコールを飲めない人が無理に飲むのはよくありません。

 


ガムチューイングのすすめ

人は、噛むことで脳の血流量が通常より8~28%アップし、認知症の予防・改善ができるといわれています。記憶力テストの前に2分間ガムを噛んだ場合と、噛まない場合を比較したところ、若年層には有意差は認められなかったものの、20%の高齢者には明らかに記憶力がアップしていたという結果が得られています。

 


「ちょいデブ」をめざす

健康寿命の延伸には、適度に太ってて、アルブミン・コレステロール・ヘモグロビン値が高いほうがよいと示されています。(表①~④)「痩せすぎ・低栄養」は骨密度も低くなり、ロコモの危険大です。体重の重い人は大腿骨の骨密度が高く、軽い人・歩かない人は骨密度が低いので、従って転ぶと骨折しやすいのです。すなわち許容範囲のメタボは、むしろロコモには好都合と言えます。

次期国民健康づくり運動に関する委員提出資料(厚労省)より

更新日2019/08/18